– プロフィール –
1981
愛媛県に生まれる。
2004
倉敷芸術科学大学工芸学科ガラスコースを卒業し同大専門学校クラフトコースの助手をつとめる。同年、赤澤清和氏(岡山市)に師事。
2005
赤澤氏の急逝を受け、赤澤グラススタジオを引き継ぐ。
岡山県美術展覧会で県展賞受賞。以降、入選を重ねる。
2007
倉敷にて吹きガラス工房 ぐらすたTOMOを設立。
2011
邦画「テルマエ・ロマエ」の小道具を制作。
2012
ヴェネツィアのガラス工房にてSabino Ventura氏監修の元、吹きアシスタントをつとめる。
2017
第68回岡山県美術展覧会で山陽新聞社賞受賞。
2018
真言宗総本山金剛峯寺奥殿において、高野山参与会開催の茶導師・梅原宗直氏が監修する茶会に茶碗が展示される。
第69回岡山県美術展覧会で県展賞受賞。
2019
高野山準別格本山恵光院にて個展開催、《銀熔変香炉》奉納式が執り行われる。
水口様は、佐久本式ソーラーパネル熱分解装置を使って取り出した「REBORN GLASS(リボーンガラス)」の最初の試作をなさいました。経緯をお聞かせください。
初めは、ソーラーパネルのガラスをきれいに取り外せる技術があるので、そのガラスを使って何かできないかというお話でした。昨年9月です。
持ってこられたガラスを見て、これなら何とか使えるかなと思いました。窯の中に入れればガラスは簡単に溶けると思われがちですが、溶かす素材によっては窯に多大なダメージを与えます。
リスクがありながら試作を請け負った理由は。
ガラスに携わって仕事をする中で、ごみ処理はいつも気にかけています。自分たちが産廃として出しているガラスも年間で何トンという量になります。
失敗作が出るということですか?
制作上、絶対にごみは出るんです。出さないと叶わない制作方法もあります。
作家のスタイルにもよりますが、一度色を付けたガラスというのは基本的には再利用が難しいです。透明なガラスであればもう一度溶かすことができますが、どうしてもごみは増加傾向にあって、お金を払って処分をしています。いかにごみを出さないようにするか常に考えています。
その上で、ソーラーパネルの大量廃棄問題が目前に迫っていて、そこに解決策があるのなら、話だけでもうかがおう、知っておくことが大事だと考えました。
リボーンガラスをグラスの形にされました。普段扱われているガラス素材との違い、リボーンガラスの特徴は。
自分の窯で溶かすことさえ出来たら何とかなると思っていました。
一番は柔かさの差で、普段使っているガラスと比べて硬いです。例えば同じ1200℃の状態で、柔かいガラスは硬化するまでに長い作業時間が取れます。硬いガラスはそこから更に硬くなるので作業時間が短くなります。再加熱すればよいのですが作業効率は悪くなります。
水口様が試作した「リボーンガラス」
薄手の仕上がりでしたが、造形上の工夫は。
薄くするというのは技術として難しいんです。作家としての自分は薄くてシャープなガラスを作りたいです。逆に、分厚くてぽってりして、ちょっとゆがんでいるガラスは素材がきれいで、それだけで魅力的なものです。
素材がきれいというのは。
再生ガラスなどで、使いまわしていくと不純物が混ざって色が勝手につき、透明度が低くなります。
リボーンガラスは透明度が高いと思います。
カレットの状態にしては透明感があります。硬さを抜きにして考えると、ガラスとしてはきれいなガラスだと思います。硬さを解決する方法をこれから模索するのですが、二通り考えていて、一つは「単純に窯の温度をあげる」、もう一つは「ガラスの性質を変えていく」。ガラスを柔らかくするものなどを混ぜてみるのも良いのかなと考えています。
使う側とは視点が違いますね。
使う側は冷めた状態のガラスしか見ないでしょうが、我々は溶かした状態のガラスが相手で、それが判断基準になってきます。単純に柔らかくなる材料を混ぜれば良いという問題ではなく、ガラスの強度が下がるとか、膨張係数の問題が出て来ます。
い草の灰を混ぜた「いぐさガラス」は水口様の工房ならではの製品ですが、いぐさガラスについても聞かせてください。
6、7年前、倉敷市の生産者が集まる展示販売会で年齢の近い、い草生産者に会って、業界の将来的な懸念を聞きました。生活の中でい草がほとんど見られなくなった現在、何か新しいことをと話し合う中で、ガラスに溶かしてみようと考えました。
倉敷のい草は染料で染めて花ござなどにしています。それを織った際の、これまで廃棄していた切り落としを引き取って使うという形に落ちつきました。開発には1年を要しています。
いぐさガラスは普段使いの価格を目指しています。作家として作る作品は特別なもので普段使いにはならないし、窯は24時間、365日稼働しているので工房として利益を出す手段が必要です。自営業の先輩が言う「商品と作品は違う」ということを掴み切れておらず、自身の作家としてのスタイルに悩んでいた時期でもありました。
選ばれる商品にするために何か一つ物語が必要で、いぐさガラスには物語があります。それが完結しているので、色のみの表現に留めて余分な装飾は避けています。自分が不在でも工房で生産できる形です。地域性がないガラスに独自性を加えるという意味で、倉敷市で育ったい草のみを使用しています。
優しい色合いが美しい「いぐさガラス」
水口様の工房は倉敷市にありますが、ご出身は愛媛県です。
大学で勉強した後、これ一本でやり続けてきました。25歳で独立して、最初の目標は30歳までにガラス一本で食えるようになることでした。故郷に帰っても良かったのですが、学生時代からお世話になっていた赤澤清和さんに師事して岡山に残りました。
日本人としての生活の中で、食器として考えたらガラスは陶器には敵いません。熱いものに使えるわけではなく、あまりカラフルでも和食に合いません。食器の作家ではなく美術の作家を目指した理由はそんなところにもあります。
水口様のオリジナル技法が生み出す「銀熔変」
これから取り組んでいきたいことを教えてください。
吹きガラスという分野に興味を持ってくれる若い人を増やしたいです。業界が盛り上がっていくためにも、一般の人に響くような作家が、それは自分でなくてもいいので、誰かが成功のモデルになって、そういうところに魅かれて作り手が増えていけばと思います。
協会への入会の動機、またメリットはどのように考えておられますか?
ガラス作家として、工房として、自分を知ってもらう必要を認識しています。名前を出していく、自分を売り込んでいくチャンスがあるならそこへ飛び込んでいきたいと考えています。
今後、協会に協力、貢献していけそうなことがあれば聞かせてください。
ガラスとしての性質を高めていくという部分である程度協力できたらと思います。その先の普及、作品としていろいろな方に使ってもらうとか、販売ルートとして展開する、さらには展示会や海外展開などが考えられます。段階を踏んでいかないといけませんが、今はまだ本当の入り口のところにいて、できないことがやれたらいいなと思っています。
協会に対して期待することがあれば聞かせてください。
今こうして動き出した活動を続けていってもらうことが大切ではないかと。将来的にさまざまな可能性を秘めていると思います。
自分自身の作家活動で再生ガラスはメインではないので、いずれは再生ガラスをメインにする作家さんが立っていけば良いと思います。
ただ、廃棄ガラスの問題、ソーラーパネルの問題については少しでも携わっていきたいです。ガラスの原料が上昇する中で、リボーンガラスが安価に抑えられるならばそういった面の魅力もあります。声をかけてくれなければ知ることもなかったことで、面白いと思っています。
吹きガラス工房 ぐらすたTOMO 様のHP