講師:西粟倉村役場 地方創生推進室 参事 上山隆浩 様

4月27日、「脱炭素先行地域・西粟倉村の取り組み」をテーマに第5回オンラインセミナーを開催しました。

※脱炭素先行地域とは、2050年カーボンニュートラルに向けて、民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴う CO2 排出の実質ゼロを実現し、運輸部門や熱利用等も含めてその他の温室効果ガス排出削減についても、我が国全体の 2030年度目標と整合する削減を地域特性に応じて実現する地域で、「実行の脱炭素ドミノ」のモデルとなります。

藤井尊久代表が「日の丸ソーラーリボーンの実現に向けて」と題して協会の概要や実現計画について説明、続いて西粟倉村役場地方創生推進室参事の上山隆浩様に「脱炭素先行地域・西粟倉村の取り組み」についてご講演いただきました。
上山様は、2009年から地域の自然資本を活用する「100年の森林構想」に取り組み、今春からは総務省の地域力創造アドバイザーも務めておられます。

西粟倉村の過去15年間の取り組み

協会事務局の移転先でもある西粟倉村は、中山間地域、中国山地の分水嶺上にあり、人口は現在約1400人。村の面積の9割以上が森林で、その84%が戦後に植えられた杉、檜の人工林です。この地域の自然資本をもとに「百年の森林構想」を着想して、地域ぐるみで森林の管理に取り組んできました。水や木材を地域の中でエネルギー化して経済を回し、若いIターンの方たちが自然資本を活用した事業を起業するという流れを作り、2019年にSDGs未来都市、昨年、脱炭素先行地域に選定されています。

上山様は、森林資産を活用しデッドストックにしない取り組み、自然資本の価値を高める再生可能エネルギーへの取り組み、百年の森林事業の間伐材の流通などについて次のように解説されました。

– 森林資産を活用し、デッドストックにしない取り組み
森林資源の価値を高めるため、多様な立場の人が参加して、森林を整備しながら地域の中で加工したり、大手の合板工場などに出したり、使用できないものも地域の中でエネルギー事業に活用したりといった取り組みを行っています。

– 自然資本の価値を高める再生可能エネルギーへの取り組み
地域にある川の水力や木質バイオマスの利用、今後は太陽光など、自然資本の価値を高めながら再生可能エネルギーを増やしていくという取り組みは、中山間地域にとっては挑戦しやすいです。人口減少という課題に対しても、若い人たちに来てもらい、経済を含めた地域政策へと展開させて、現在地域の生産力は22億円に上っています。

-「百年の森林事業」の間伐材の流通
再生可能エネルギーに利用するのは木材の中でも質の悪いものが中心。地域の中、或いは民間で価値をつけるのが難しい部分は行政が整備し、後に民間事業として自走させていくことがポイント。また災害時には、木質バイオマスチップを使ったCHP(熱電併給システム)と地域熱供給システムを併設することで、電気事業者からの電力が途絶えても機能が維持できる仕組みです。

脱炭素先行地域へ! 地域の安全保障政策として

また、上山様は、脱炭素先行地域の申請にあたって共同提案コンソーシアムを編成したことを紹介されました。
再生可能エネルギーを作りつつ電力削減も行い、更に不足する電力は水力発電の買い戻しを行って、全てを西粟倉村産の電力で賄う仕組みにしていること、関係者と連携する体制作りが重要で、ファイナンス、技術、知識など、民間と組んでいく必要性について言及されました。
「採択されるには、地域の特性、課題にあった内容の計画を提出するのが望ましい」とのこと。併せて取り組みによるメリット、デメリットについても触れ「データを集約して活用する基盤整備も重要」とも話され、「温暖化対策に限らず、エネルギーはすでに安全保障対策になっていて、自給は地域の安全保障に関わる問題として捉えていく必要がある。この視点から脱炭素を考える必要があるのでは」と結ばれました。


講演終了後、上山様と藤井代表が対談し、講演内容を深掘り。

  • 行政が事業を行い続けるのではなく、民間に移行することで、より大きな恩恵が生まれ、協力の輪が広がる。行政は、国の補助金をプレイヤーとしての民間へ流れるように舵取りしていくのが望ましい。
  • 官民は「補完」ではなく「連携」しているという意識が双方に必要。
  • 「脱炭素先行地域」というのは、設定された目的に対する「ツール」「手段の一つ」として考える必要がある。
  • 企業や若い人たちに集まってもらうためには、はっきりとしたビジョンを見せる。

などと意見を交わされました。